このままスニーカーは広告に成り下がってしまうのか

スニーカーバブル後の行方とは

ここ数年のスニーカーの盛り上がりは凄まじかった。ナイキをはじめとするスポーツブランドは大きくブランド価値を伸ばし、国内でもABCマートやアトモスの原宿ドリームなどスニーカー界隈は騒がしく進んだ。明らかなプレミアム市場であり、転売が繰り返されることも当たり前になった昨今、スニーカーが本来のスポーツシューズという役割ではなく、ファッション要素で終わるでもなく、コラボレーションなどによる広告化が進む。このままスニーカーの未来はどのような形を歩んでいくのか。スニーカーの未来と豊かな接し方を考察していく。

 

スニーカーの新しいイノベーションは止まってしまったのか

スニーカーの歴史は諸説諸々だが、1890年代にリーボックの創業者ジョセフ・ウィリアム・フォスターが自作で陸上用スパイクを作ったという説が濃厚だ。そう、忘れてはいけないのは運動用の靴という事だ。そして、1908年にコンバースが創業し代表モデル「オールスター」を1917年に販売。ナイキの誕生は思ったより最近で1968年、モンスターブランドの誕生だ。

スニーカーのファッション要素が爆発的に広がったのは1980年代後半のエアマックスの誕生が大きい。私も直撃世代なので社会現象にまでなった様相はリアルタイムで見ていたし、憧れていた一人でもある。エアマックスやポンプヒューリーなどのビッグヒットが連続した。

その後も多くのデザインやニット素材を用いた新しい提案など、スニーカーのイノベーションは続く。新しいモデルがどんどんと誕生していったのだ。だが、この流れは徐々に変化していく。

現在、ナイキを始め、多くのスポーツブランドは人気のスニーカーモデルを所有している。エアマックスやスーパースター、スタンスミス、数え上げればきりがない。これは間違いなくブランドの資産であり、もはや作ればある程度は売れるのが確実な、打ち出の小づち状態だ。

このブランド資産である人気モデルをローテーションして復刻をする。常に販売はせずに時機を見てプロモーションし販売する。そうすることによって既存モデルではあっても陳腐化せず、鮮度も保てる。モデル誕生○○周年などといったプロモーションや、著名インフルエンサーとのタイアップ、広告が徐々にスニーカーを侵食していく。

個人的にはadidasのアイランドシリーズやシティシリーズなどもっと復刻してほしい気持ちがあるのだが、おそらくそこまで需要が無いのだろう。ローテーション入りしているのは限られたモデルで、復刻のサイクルもマンネリ化を感じる部分もある。

そして極めつけはコラボ商品だろう。LVとナイキ、adidasとグッチ、PRADAもだ。もはや既視感のあるコラボだが本来は運動靴のものとラグジュアリーなブランドが交わることは刺激的だ。これによって両社が新たな客層にアプローチできるのも間違いないし、非常に有効な広告戦略だと思う。

ただ、気になるのはお互いのブランド資産を出し合った「載せ替え」であって新しいものではないという事だ。これはスニーカーだけでなくファストファッションと有名ブランドとのコラボなどにも言えることなのだが、消耗している感覚と広告的なものが入り込む感覚がどうもぬぐえない。

商売と広告に夢中になり、新しいイノベーションの産み方がズレてしまってきているように感じるのだ。

 

 

スニーカーとベアブリックは広告媒体になりつつある

ベアブリックは2001年に誕生したメディコム・トイ社の手掛ける「デジタルなイメージのテディベア」だ。特徴としては多様な企業とのコラボレーションがあり、希少で人気のあるものは高額で転売する市場が形成されている。世界中にコレクターが存在する訳だが、スニーカーがほぼベアブリック化しつつあることは間違いない。

かの電通も一時期ベアブリックに熱視線を送っていたのは広告としての有効性が明らかだったからだろう。

ベアブリックは独特のファン層を持つ事から、企業が違った客層にリーチすることもできるし、何やらお洒落なブランドイメージも付与される。そこまで売れなかったとしても広告コストと考えれば非常に有効な手段だ。拡散手段はSNSで充分対応できる。

ただ、これもまた、新たなものは生まれておらず、決められたフィギュアのベースにデザインを施しただけでコラボをする企業の商品力が上がったわけではない。スニーカーと同様だ。

スニーカーは本来、スポーツ用のシューズであり、真っ当な正常進化をするのであれば運動性能を上げていき、軽量化し、そしてデザインする。もちろんファッション要素も重要な部分ではあるが、根幹となる部分が無くなり、デザインもまた載せ替えで広告化している現状はマネーゲームに見えてしまう。そして、希少性をアピールする自己顕示欲を満たすツールに見えてしまうのだ。それは果たして豊かなのだろうか。

 

新しいものが生まれにくい時代に次のスニーカー業界が打つ手はメタバースに

もはや新しいものが生まれにくい時代なのだ。衣服に関しても今、我々が着ている洋服は少なくとも100年以内にベースが出来上がった焼き増しの商品ばかりのリプロダクト品ばかりだ。純粋に新しく生まれた洋服はウェットスーツや宇宙服などになってしまうだろう。スニーカーは比較的新しいカテゴリのものだったので、ついこの間までは新しいイノベーションにあふれていた。それが限界を迎えつつあるのか、このような停滞感を感じるのだと思う。

その中で、新たなスニーカーのイノベーションとして注目をされているのはNFTやメタバースへの進出。デジタルファッションだろう。

現物を所有するのではなくデジタルデータとしてスニーカーを所有する。メタバース内で活動するアバターに自由に着せかえることが出来、売買も可能だ。要するに現実世界と変わらない。

その代わりそのスニーカーは空を飛べるのかもしれないし、色がどんどん変わるのかもしれない。火を噴くこともできるし、デジタルの世界なのだから制約はなく何でもできる。これは間違いなく新しいイノベーションになるだろう。

ただ、いずれはこのような時代が当たり前になるのだとは思うが、まだまだ時間はかかる。それまでにこのスニーカー業界の消耗戦を見続けるのか、それともメタバースやNFTとなるまでに、新しいイノベーションを起こしてくれるのか。そして、豊かな気持ちで楽しめるスニーカーは今後生まれていくのか。

現実世界とメタバース共にその動向を楽しみに見守りたいと思う。