リメンバー・ネクタイ メンズクロージングに豊かさを

止まらないネクタイの需要減少

私はネクタイが好きだ。

私はビジネスだけでなく、プライベートでもネクタイを着用することも多く、スーツやジャケットスタイル以外でもコーディネートとして使用する。特にアイビー的なスタイリングには使いたくなってしまうことが多く、私にとってネクタイは、一般的な距離感より身近なものになるだろう。

だが、現在のネクタイを取り巻く環境は散々な状況だ。トレンドのカジュアル化、クールビズの推進、リモートワークの浸透。ネクタイをしなければならないというビジネスの概念は薄まり、着用するシーンも減少の一途を辿る。今回はネクタイを豊かに装うことについて考察していきたい。

ネクタイは着けなくてはならないものなのか

1988年のバブル期におけるネクタイの年間国内流通量は5620万本と言われており、国民の二人に一人が購入しているであろう恐ろしい量だ。一方で2019年の調査では国内流通量が1730万本と著しく減少。コロナ禍において、更に減少する可能性も高く、ネクタイの復権には先が見えない。

ネクタイはメンズクロージングにおける数少ないアクセサリーだ。メンズクロージングの世界は様々な制約やルールがあり、その中で如何に個性を出し楽しむか。メンズクロージングに華を添えるものとしてネクタイやポケットチーフ、カフスボタンなど数少ないアクセサリーで個性を出すのだ。

そもそも、ネクタイはそのような装飾品であり、「着けたいから着ける」ものだったはずだ。ネクタイの誕生は諸説諸々だが、17世紀にフランスのルイ14世が戦争のために集めたクロアチア兵士が首に巻いていたスカーフに興味を示したことからネクタイが産まれたとされている。

元々は無かったものであり、する必要があって産まれたものではない。着けたいから産まれた、純粋な装飾品なのだ。

時は流れて現在のネクタイの立ち位置は多くの人にとって「仕事で着けなければいけないもの」に変わってしまった。確かにネクタイをするのは窮屈でもあるし、結ぶのも面倒でコストも掛かる。それはアクセサリーとして「着けたいもの」であれば、成立するが、「着けなければいけないもの」とされると疎ましい存在になる。

そしてクールビズやカジュアル化の流れが来て、「さあネクタイを着けなくても良いですよ」となると、疎ましい存在なのであれば、誰もしようとせず、売れなくなるのも道理だろう。

だが、元々は装飾品なのだ。ネクタイを身に着けることによって華やかさや個性が加わり、退屈で画一的になりやすい男の洋服に華を添える存在。

現にネクタイの役割は大きい。スーツやメンズクロージングは素人目には季節感が分かりにくいものだ。電車で冬場に春物のスーツを着ているサラリーマンなどざらに目にする。厳密に生地の織りで季節は分かれるのだが、悲しいかな日本のメンズクロージングの理解度は高くは無い。

そんな季節感が曖昧に見えやすいものに季節感を演出するのもネクタイの役割だ。春夏物のトロピカルスーツにリネン混のネクタイを巻けば軽快なVゾーンになるし、秋冬には起毛感のあるフランネルのスーツにウールのネクタイを身に着ければ印象も様変わりだ。

ネクタイの柄にも大きなパワーがある。レジメンタルだとアメトラやアイビー、小紋やペイズリーだとクラシコイタリア、ネクタイの太さはスーツのラペルボリュームやシャツの襟型に合わせて、モダンにもクラシックにも見え方を変えれる。元々はレジメンタルは所属を表す目印でもあった。個人のアイデンティティを表現するアイテムの一つだったわけだ。

実に奥が深く楽しめるものであり、現在まで淘汰されずに残っているのも納得ができる存在だ。

なぜ人は花を活けるのか

なんでも利便性を求めて効率化し、そぎ落とし、身を軽くしていくことは豊かさを失う可能性もある。人は何故、花を活けるのか。それは豊かさを得るために他ならない。花を活けることは効率を度外視している。花瓶の用意や水替えの手間など面倒なことだらけだ。それを補ってもあまりある豊かさを花を活けることによって得られるからこそ、人は花を活けるのだ。「活けなくてはならないもの」のではなく「活けたいから活けるもの」なのだろう。

ネクタイは花を活けることに等しいことのはずだ。

仕事に追われ、効率化の連続の中、いつしか豊かさを得れるはずのものが面倒で疎ましいものに変化してしまった。そして今、お役御免のような状態になりつつある。ちょっと待ってくれ。ネクタイはそんなものではないんだと私は強く言いたい。

ビジネスにおいて日々戦い続けるサラリーマンたちは多忙を極める。そんな中、少し立ち止まってコーディネートを見てみよう。今日の商談で会う人のことを思い浮かべ、どのような印象に見せたいか、どのような関係を築いていきたいのかを考えながらネクタイを選んでみよう。

そうすれば、いつもと違った気分で商談に臨めるかもしれない。いつもより少し背筋が伸びたような気持ちにさせてくれるかもしれない。

ネクタイはしなくてはならないものではない。したいから着けるものだ。ぜひ豊かなネクタイとの向き合い方を考えてほしいと思う。

 

 

豊かなネクタイ

人生の様々な考察、シーンに合わせた装いの提案、I SUGGEST。今回は着けなければいけないものではなく、つい着けたくなってしまう、そんな豊かなネクタイをご紹介したい。仕事でネクタイをする必要がなくなり、つい装うことが億劫になってしまっている人、普段使いにネクタイをチャレンジしてみようと考えている人、いろいろなケースがあると思うが、今から提案するものは間違いなく装いを豊かにするであろう品々の為、興味のある方はぜひチャレンジしていただきたいと思う。

ドレイクス 50オンスロイヤルツイルタイ

ドレイクスの大定番である50オンスロイヤルツイルタイは、英国製を貫き、文字通りのヘヴィーオンスでコシのあるしっかりした着け心地が魅力。ディンプルも美しくボリューム感のあるVゾーンの演出が可能だ。明らかに上質な素材感が着けた者の背筋を伸ばす。ネイビーソリッドならスーツスタイルからカジュアルまで汎用性も高い。実用的でありながら豊かさも提供してくれる数少ない一本だ。

KUSKA フレスコタイ

KUSKAは「丹後織物300年の美しいものづくりと誇りを胸に」をコンセプトに2010年に設立された純粋なオールハンドメイドジャパニーズブランドだ。高い手織り技術から生み出されるファブリックは手織りらしい空気を含んだ柔らかく立体的な質感で、他のフレスコタイとは一線を画す。先に紹介したドレイクスのタイと同じネイビーではあるが、色出しもまた日本の伝統でもある藍染を連想するインディゴブルーで全く印象が変わる。洋服はあくまで西洋文化だが、その中に日本人としてのアイデンティティを入れこむことは、豊かさに繋がるのではないかと思う。必ずや愛着が持てる一本になるだろう。

ブルックスブラザース アーガイルサザーランドストライプタイ

非常にアイコニックなブルックスブラザースのレジメンタルは数多くあれど、その中でも特におすすめしたいのがこのアーガイルサザーランドストライプだ。他に赤ベースのパターンも存在する。スーツスタイルよりかはブレザーに合わせるアメトラ的なアイテムだが、不思議なほどカジュアルに合う。例えばファティーグジャケットやツイードのハンティングジャケットなどカジュアルなジャケットにも相性が良い。また極端なカジュアルまで対応も出来る。例えばこのネクタイをスウェットとボタンダウンシャツを合わせてベースボールキャップを被ればシティーボーイの完成だ。スクールマフラーかのように自然とカジュアルに取り入れる事が出来るので、ネクタイを日常に取り入れるチャレンジアイテムとして、ぜひおすすめしたい。