
戦後まもない頃の路地を舞台に、少年たちが過ごしたあの夏の日々を綴る回想の物語。木造家屋が並ぶ細い路地で、ランニング姿の少年や半ズボンの男の子、ワンピースの少女が立ち止まり、足元には鉢植えの朝顔や金だらいが置かれる。淡い水彩で描かれた風景は線の輪郭が柔らかく、白を多く残した余白が陽射しと埃っぽい空気を同時に運んでくる。手書き風の太いタイトル文字が画面上部にゆったり収まり、文庫らしい簡素な造本がかえって記憶の手触りを際立たせている。絵の柔らかさと余白の白が、過ぎ去った時間を静かに呼び戻すための装置として働いている。

著栗原ちひろ
装丁西村弘美
装画THORES柴本
KADOKAWA / 2016年
文学・評論