
放浪記の一節を踏まえた題名が示すとおり、一人暮らしのなかで猫と過ごす日々を綴ったエッセイ。木製のチェストの上に座る白黒の猫を中心に、傍らには赤い目覚まし時計と陶器らしき小鳥の置物が寄り添う。背景はやわらかな筆致の緑で塗られ、猫の毛並みや家具の木目はマットな手描きの質感を保つ。タイトルは肉筆を思わせる墨字で右上に縦組みされ、絵と文字が同じ手のひらから生まれたような親密さを湛えている。生活の小さな景色を、過剰な情緒を避けて静かに切り取った一冊。

著平谷美樹
装丁原田郁麻
装画agoera
KADOKAWA / 2020年
文学・評論