
繁華街の交差点を見下ろす視点から、空に浮かぶ吹き出しの中にタイトルが置かれた一冊。日々の暮らしのなかで積み重なる小さなしくじりや羞恥の記憶を、軽やかな筆致で綴ったエッセイ集である。表紙は写真をトレースしたような線画に薄いオレンジとグレーの二色を重ね、雑居ビルや車、横断歩道の生活感を抑えた色面に落とし込んでいる。画面右上には箒に跨り街の上空を横切る人物が小さく描かれ、地に足のついた風景と空想とが同じ画面に同居する。吹き出しの群れは、誰もが胸の奥で抱える独白の浮遊感そのものを、街の上に置き直したかのようだ。

著上遠野浩平
装丁楠目智宏
装画サマミヤアカザ
早川書房 / 2020年
文学・評論