
認知症の高齢女性たちが、記憶のなかで時を越えて少女時代へと旅立っていく物語。タイトルと著者名は明朝体で縦に配され、白地の余白を大きくとった構成が、淡い時間の流れを思わせる。中央には鉛筆と淡彩で描かれた緑陰の樹、クリーム色のクラシックカー、舞踏会の衣装をまとった人物、宮殿のような建物、舞い飛ぶ鳥や大輪のパンジー。線は細く繊細で、輪郭の外へにじむ彩色がやわらかい。記憶の断片がひとつの庭に集められたような細密画が、現実と夢のあわいを行き来する物語の手触りを、静かに紙の上に立ち上げている。

著中西鼎
装丁川谷康久
装画雪下まゆ
新潮社 / 2019年
文学・評論