
筆跡鑑定人でありながら自らは書を書かない、という矛盾を抱えた青年を主人公に据えた連作短編。人の文字に宿る癖や感情を手がかりに、事件や人の機微を読み解いていく物語である。表紙は白地を大きく取り、藍の作務衣をまとった青年が頬杖をついて静かにこちらを見据えるイラストレーション。周囲には万年筆、鉛筆、巨大な筆、散らばる紙片が配され、文字を扱う者の道具が淡い色で浮かぶ。縦組みの明朝でタイトルを右肩に置き、余白の白が紙の手触りを連想させる。書かない人物と、書くための道具たちとの距離が、そのまま物語の静かな緊張感を映している。

著彩坂美月
装丁岩郷重力+WONDER WORKZ
装画カズアキ
東京創元社 / 2017年
文学・評論