
93歳になったシャーロック・ホームズの晩年を描く長篇。記憶の翳りと向き合いながら、ずっと心に残る一件の真相を辿る、静かな探偵小説である。表紙は山高帽の鍔にそっと指をかける老紳士を、灰青の背景に浮かべる絵画的な描画で見せる。黒い外套に沈む輪郭、伏せられた目元、にじむような筆触が画面全体に薄い霧をかける。タイトルは細い罫線で囲まれた黄の二段組で、暗い画面に小さな灯のように置かれている。老いの陰影と、消えない一筋の輝きが、装丁の中で静かに重なり合う。
著榎田尤利
装丁西村弘美
装画中村明日美子
KADOKAWA / 2016年
文学・評論