
明治の横浜を舞台に、訳ありの青年たちと「開かずの間」に潜む少女をめぐる怪奇譚。文明開化期の港町を覆う仄暗さと、人ならぬものの気配が交錯するレトロ・ミステリーである。表紙は煉瓦壁の洋館を背景に、ハンチング帽の青年、シルクハットの紳士、振袖の少女が淡い光の中で配される構成。水彩のにじみを残した彩色と、橙と灰青を効かせた色面が時代の湿度を漂わせる。タイトル文字は朱と墨を交え、一文字ごとに大小をつけて古めかしい刷り物の趣を添えた。装画と書体の双方が、開化期の華やぎとその奥にひそむ翳りを静かに立ち上がらせている。

著上遠野浩平
装丁楠目智宏
装画サマミヤアカザ
早川書房 / 2020年
文学・評論