
古書店をめぐり、街の片隅で生きた人々の記憶を拾い集めてきた著者が、自身と東京の距離を綴る随筆集。白い余白を大きく取った表紙の中央に、黒一色の木版画が小さく据えられている。煙突から立ちのぼる煙、川面に浮かぶ小舟、こちらを見据える人物——力強い彫り跡が、煤けた近代の東京の手触りを伝える。題字と著者名は朱に近い赤の明朝体で縦に並び、版画の黒と余白の白に鋭く差し込まれる。線の粗さと活字の端正さが、土地の記憶を語る声の調子をそのまま装丁に重ねている。

著牧野伊三夫
装丁中林麻衣子
装画牧野伊三夫
中央公論新社 / 2018年
文学・評論