
残照」「墓誌」という言葉に導かれ、夜の路地裏へと足を踏み入れる一篇。失われたものへの追想と、ひとつの土地に堆積した時間を巡る物語が、灯りの奥に静かに広がる。装画は、提灯の滲む路地に佇む男女と、手前の白い台の上で大きく口を開け欠伸する猫を捉えた一場面。深い藍と黒に沈む奥行きのなかで、淡いクリーム色の毛並みと、抜き文字めいた黄のタイトルだけが灯のように浮かび上がる。残光のなかで時間が緩む、その一瞬の感触が一枚に閉じ込められている。
著辻真先
装丁石松経章
装画げみ
光文社 / 2019年
文学・評論