
第168回芥川賞候補となった西村亨のデビュー作。風俗に通う孤独な中年男の日常を通して、他者との距離と承認のかたちを淡々と描き出す短編。表紙は深い黒地に、白抜きで荒々しく刻まれた手書き風の題字が大きく据えられ、文字の輪郭は途切れ、欠け、わずかに歪む。下段には「×」のような記号が四つ並び、否定や抹消、あるいは無名の他者の連なりを思わせる。剥き出しの線とコントラストの強さが、自分と他人を隔てる薄い膜の手触りをそのまま装丁に移し替えている。
著長井短
装丁佐々木俊
装画矢野恵司
朝日新聞出版 / 2024年
文学・評論