
認知症の父を介護する家族の日常に、ある夜起きた出来事をきっかけに静かな波紋が広がる連作小説。家族それぞれの視点から、誰も語らなかった感情と関係の機微がすくい上げられていく。深い藍を基調にした和紙のような地に、黒の抽象的な切り絵が大きく配される。中央に小さく白い花のような円形と細い水平線が引かれ、画面に張り詰めた静けさをもたらしている。タイトルは余白に控えめに置かれ、英題「MAMA KILLED HIM」が淡く重なる。輪郭のはっきりしない黒い影と、ぽつんと灯る一輪が、語られない事実と残された者たちの距離を象徴しているようだ。
著新野剛志
装丁野中深雪
装画げみ
文藝春秋 / 2017年
文学・評論