文学・評論
野口冨士男犯罪小説集-風のない日々/少女
野口冨士男
二・二六事件前夜の閉塞した時代を背景に、平凡な一銀行員が小さな行き違いの果てに一線を越えてしまう「風のない日々」と「少女」を収めた、犯罪小説集。表紙は墨の細い線で克明に描かれた日本家屋の門口に、影として塗りつぶされた人物が手をかける場面。「鈴村」と記された軒灯と、格子戸の質感がリアルに立ち上がる一方、人物だけが輪郭を奪われて黒く沈む。下半分を覆う橙の帯に大きく置かれた「何が彼をそうさせたか」の問いが、その黒い影と呼応し、市井に潜む犯意の輪郭をそっとなぞる装丁になっている。