
水彩で滲ませた淡い色面のなか、目を伏せた人物の横顔が静かに浮かび上がる。青みがかった髪、首筋に添えられた手、頬にさす淡い色——身体の輪郭は背景と溶け合い、確かにそこに在るのに見えなくなりかけている。タイトル文字は白くかすれた書体で人物の上に重なり、文字と肌の境を曖昧にする。画面に散る鮮烈なマゼンタの飛沫だけが、消えかけた存在をこの世につなぎとめる印のようだ。透明でありたい願いと、それでも残ってしまう感情の痕跡を、一枚の絵のなかに同居させている。
著松本大洋
装丁セキネシンイチ制作室
小学館 / 2022年
コミック・ラノベ・BL