
日常のすれ違いや小さな違和感から立ち上がる謎を、軽やかに描く短編集。誤解や悪意も呑み込みながら、お人好しの登場人物が右往左往する六篇が収められている。表紙は、樹々のアーチに縁取られた森の入口で、案内標識の前に佇む人物を淡い水彩で描いた一枚絵。標識にとまる黒い鳥、足元のキノコ、奥に広がる池や赤い屋根の家など、童話めいた細部が散りばめられ、白地に余白を残して文字を抜く構成が物語の入口らしい呼吸を生む。手描きの線と柔らかな彩色が、惑いながらも善き結末を願う本書の気配を、そっと差し出している。

著伊吹亜門
装丁坂野公一
装画水沢そら
小学館 / 2024年
文学・評論