
大正から昭和初期を思わせる帝都を舞台に、実在の人物像を下敷きにした連作ミステリ。歴史と幻想が交差するなかで「名探偵は誰か」が問われる、本格と時代小説の境界に立つ一冊。表紙は朱と黒を背景に、中折れ帽の男、椿、髑髏、銃口、そして大樹といったモチーフを平面的に重ねた絵画的構図。輪郭線を強調した筆致と和の意匠が、昭和初期の挿絵文化を呼び戻すように配されている。色彩の強さと細部の静けさが、語られざる事件の予兆として効いている。

著矢野アロウ
装丁坂野公一
装画たけもとあかる
早川書房 / 2023年
文学・評論