
書店を舞台に、本と人との出会いから生まれる小さな感情の揺らぎを描いた長編。古書店らしき木目の扉と本棚を背に、ストライプのネクタイを緩めた青年が一冊の本を手にして佇む様子が、淡い水彩のタッチで描かれる。輪郭は柔らかく、白を多く残した余白に、タイトル文字だけが朱色の縦組みで凛と立ち上がる。足元に添えられた緑の枝葉がわずかな生気を運び込み、静かな店内の空気を保ったまま、本に触れた瞬間に心がほどけていく予感を、画面全体の透明感でそっと差し出している。

著市川哲也
装丁西村弘美
装画まいまい堂
東京創元社 / 2023年
文学・評論