
20世紀初頭のダブリンに生きる人々の倦怠と諦念、そしてふとした啓示の瞬間を描いた短篇集。表紙にはスツールに腰掛けてカップを手にする人物が、酒瓶の並んだ棚を背にうつむき気味に佇む姿が、灰と白を基調とした粗いタッチで描かれる。木炭画めいたざらついた質感と、人物のシャツや棚にだけ差した褪せた赤が、酒場の薄暗がりと孤独な時間を立ち上がらせる。明朝体の題字を上半分の余白に静かに据えた構成が、短篇の連なりに漂う沈黙の手触りと響き合っている。
著LaurainAntoine、吉田洋之
装画Yuki Kitazumi
新潮社 / 2020年
文学・評論