
戦時という極限の風景のなかで揺れる愛のかたちを、英語圏の作家の短い文章を通して日本語へひらいた一冊。表紙には肖像画が大きく据えられ、濃紺の髪と深い紫の衣の輪郭を残したまま、顔の中心だけが厚塗りの白とピンクの筆触で渦のように崩れ、その奥に赤い一点が口のように灯る。匿名化された相貌と生々しい絵肌の対比が、安定を失った時代における感情の不確かさを静かに引き寄せる。緑のラテン字と漆黒の明朝で添えられた書名は控えめで、絵の強度を損なわない配置となっている。
著AusterPaul、柴田元幸、多田順
装丁宮古美智代
スイッチ・パブリッシング / 2021年
文学・評論