
シャーロック・ホームズが活躍する短編集の最終巻にあたる一冊。引退間際の探偵が手がけた事件群が、原作の余韻とともに新訳で収められている。表紙は鮮烈な赤一色を背景に、紫がかった肘掛け椅子へ深く腰掛けた人物のイラストを大胆に配する。口元へ運ばれた赤い手だけが背景と響き合い、伏し目がちな顔と暗いスーツの陰影が思索の気配を漂わせる。英文原題と訳者名は控えめな金、和文タイトルは余白を生かした白の明朝で据えられ、装画の濃密さと書体の静けさが拮抗する。赤の強さと佇まいの静寂が、名探偵の最後の挨拶という主題を象徴的に立ち上げている。

著市川哲也
装丁西村弘美
装画まいまい堂
東京創元社 / 2023年
文学・評論