
1955年式のアメリカ車を駆る一匹の哺乳類――その姿に「老いたスパイのバラード」という副題が重なる、ユーモアと哀愁が同居する長編。白地のカバーに、青いステーションワゴンと運転席に座るレッサーパンダ風の生き物が線描と淡彩で軽やかに置かれ、車体や余白には弾痕のような黒い染みが散る。手書き風の英字ローマ字注釈が車を取り囲み、照準のような円が重なって、図鑑とスパイ手帖を混ぜたような誌面に仕上がっている。残念さと洒脱さの両義性が、装画の脱力した筆致と紙の白さで静かに予告されている。
著宮部みゆき
装丁川谷康久
装画げみ
新潮社 / 2016年
文学・評論