
9歳で体験した出来事の記憶を、20年の時を隔ててひとかけらずつ取り戻していく物語。誰もが知る話、けれど自分だけが知らない恐怖の輪郭を、主人公はゆっくりとなぞっていく。黒い地に、水彩で淡く滲んだ二つの人影が間を置いて立つ。緑と青、顔も表情も描かれず、長い髪と細い身体の輪郭だけが残された少女たち。白い明朝のタイトルは余白に静かに置かれ、図像も文字も多くを語らない。知っていることと知らないことのあいだに横たわる深い闇を、画面そのものが抱えている。

著吉川トリコ
装丁森敬太
装画重田美月
U-NEXT / 2023年
文学・評論