
東京・谷中の小さな喫茶店「トルンカ」を舞台に、店を訪れる人々と店主親子のささやかな交流を描いた連作短編集。常連客たちが抱えるそれぞれの事情と、一杯のコーヒーが結ぶ束の間の時間が、静かな筆致で綴られる。カバーは版画調のイラストレーションで、黄褐色のカウンターと窓から差す光、青いコーヒーポットや積まれた皿、奥でカップを差し出す店主と客の姿を、限られた色数で柔らかく構成。タイトルの墨色の和文と、控えめに添えられたローマ字が、昭和の喫茶店の落ち着いた空気をそのまま閉じ込めている。
著井上荒野
装丁藤田知子
装画田中海帆
中央公論新社 / 2016年
文学・評論