
夏のある日、有馬千夏という少女が体験する不可思議な出来事を描く一篇。表紙には、木漏れ日の落ちる小道に立つ少女と、その足元に伸びるチェロケースらしき影が淡い水彩で描かれ、青いスカートと深い緑の葉群が、湿度のある夏の空気を立ち上らせる。「ひぐらしふる」の平仮名タイトルは透けるような若草色で大きく置かれ、絵の輪郭をなぞるように溶け込んでいる。少女の輪郭を縁取る光と、足元の影に潜む気配。揺らぐ夏の一日を、視覚そのものでそっと差し出してくる装丁。

著伊吹亜門
装丁坂野公一
装画水沢そら
小学館 / 2024年
文学・評論