
蔦に覆われた洋館の玄関先で、メガネの男性ふたりが向き合う一場面を切り取った文庫。茶トラの仔猫を抱く落ち着いた茶系スーツの男と、買い物袋を提げたストライプシャツの青年。蔦屋敷をめぐる遺言という設定が、邸宅と人物の関係性を静かに示唆する。表紙は水彩タッチの透明感あるイラストで、煉瓦と新緑の対比、白い柱や玄関灯の柔らかな陰影が画面に奥行きを与える。タイトルは細い手書き文字で人物の頭上に配し、内題を貼り紙のように添える構成が、物語の入り口を覗き込ませる効果を生んでいる。
著石井千湖
装丁佐藤亜沙美
装画間芝勇輔
文藝春秋 / 2021年
文学・評論