
記憶を失いつつある老人ノアが、屋根裏で古い手紙を読みながら、亡き妻オパールとの日々を断片的に手繰り寄せていく物語。時間と記憶の輪郭が溶け合うように、語りはやわらかく揺れていく。表紙には、淡いグレーの地に色鉛筆で素描された男の顔と上半身。橙、緑、青、黄の細い線が重なり合い、目を閉じた横顔と、肩や胸のあたりへ流れ落ちる線が、ためらいながら像を結んでいる。明朝のタイトルは画面上部に静かに置かれ、訳者名は素描の中ほどに小さく添えられる。輪郭が定まらないまま漂う線描は、ほどけていく記憶そのものの手触りとして、本の主題と静かに響き合う。
著ミラン・クンデラ、西永良成
装丁田中久子
装画横山雄
集英社 / 2024年
文学・評論