
古びた洋食店の店内だろうか、窓辺に立つ給仕姿の人物が外を眺める情景が描かれる。新しい職場や日常のなかで「明日の自分」を探していく長月天音の物語であろうことが、その後ろ姿からそっと予感される。 装画は朱赤からテラコッタへと流れる暖色で全体を統一し、格子窓・カーテン・木製の椅子・タイル床のパターンを細かなテクスチャで描き分ける。明朝体の縦組みタイトルは余白を残しながら大きく配され、暖色の画面に黒の文字が静かに落ち着く。 懐かしさと前を向く気配を同時に閉じ込めた、穏やかなトーンの一冊。

著市川哲也
装丁西村弘美
装画まいまい堂
東京創元社 / 2023年
文学・評論