
短編集として、人間の心の機微と恐怖を結晶化させた一冊。逡巡の数十秒が二十年の悔恨を生む——そんな日常と異界が地続きになる小林泰三の世界を、角川ホラー文庫が文庫化した。 漆黒の地に、髪を振り乱した少女の半身が浮かぶ。瞳の縁の赤、唇から伝う鮮血のような滴、髪に絡むピンクの絵具の飛沫が、油彩のストロークと混ざり合いながら肌の青白さを際立たせる。タイトルは黄色の明朝で縦に切り分けられ、絵の上を断ち切るように走る。 迷いの一瞬と取り返しのつかなさ。揺れる視線と荒く塗り重ねられた筆致が、その時間の歪みを一枚に閉じ込めている。

著伊吹亜門
装丁坂野公一
装画水沢そら
小学館 / 2024年
文学・評論