
ディックが晩年に書き残した「ヴァリス三部作」の掉尾を飾る一作。実在の司教をモデルに、信仰と狂気、死者との交感を巡る思弁が、遺された者たちの語りを通して静かに展開していく。漆黒の地に金一色で刻まれたのは、剣や鍵を思わせる意匠が組み合わさった十字の紋章。罫線で囲まれたタイポグラフィと中央の図像が祭壇画のように整列し、宗教的な荘厳さと神秘学的な気配を同時に立ち上げる。物語の主題である「信仰の探究」を、装丁そのものが一枚の図像として差し出している。
著DickPhilipK、小尾芙佐
装丁土井宏明
早川書房 / 2020年
文学・評論