
少年とも少女ともつかぬ短髪の人物が、紙袋を抱え、片手に薔薇を覗かせたビニール袋を提げて歩き出す。背景には黄、ピンク、橙の薔薇が群れ咲き、淡いタッチで人物のまわりに溶け込んでいる。タイトルが示すように、ある日のささやかな出来事が後から色づいて立ち上がる、そんな時間の手触りを描いた物語と思われる。表紙はやわらかな線画とほの明るい彩色で、白い余白を大きく残した余裕ある構図。タイトルは縦組みで右上に控えめに置かれ、薔薇の華やかさと人物の所在なさが、甘さに沈まない均衡で配されている。日常の隅に咲いた瞬間を、そっと栞のように挟みたくなる一冊。

著望月麻衣
装丁bookwall
装画いとうあつき
ポプラ社 / 2023年
文学・評論