
夜行列車のような車内に佇む、赤いワンピースの少女。古びた木製ベンチと連なる電灯の温かな光、窓の外に流れる夜景。「ただいま」と言える場所を探す物語の予感を、ひとつの旅の情景に託した青春小説。装画は柔らかな筆致のイラストレーションで、暖色の照明と藍色の夜とのコントラストが画面の奥行きを生み、車両の遠近線が中央の少女へと視線を導く。タイトルは縦組みの明朝で右側に大きく配し、「ただいま」だけを括弧で囲って言葉そのものの重みを際立たせる。光と影、距離と帰着――装丁全体が、物語の核を静かに予告している。

著市川哲也
装丁西村弘美
装画まいまい堂
東京創元社 / 2023年
文学・評論