
音楽教室に潜入する調査員の孤独な闘いを描く長編。少年期のトラウマを抱えた人物がチェロを手に、偽りの素性で稽古場に分け入っていく物語である。表紙は深い藍を基調に、椅子に腰かけて弓を構える奏者と、その背後に静かに浮かび上がる古代魚のような巨大な影を描く。水底を思わせる気泡や淡い光、流れる髪と衣のひるがえりが画面に動きを与え、白抜きの明朝でタイトルが縦に切り込む。下部に重ねられた砂色の帯と唐草の文様が、海の底のような表側とのコントラストを生む。沈黙と緊張が、楽器の弦のように張りつめている。

著橋本長道
装丁坂野公一+吉田友美
装画たえ
集英社 / 2016年
文学・評論