
ミルハウザーの短篇集。日常の風景にふと裂け目が走り、平凡なものが奇怪なものへと変貌していく瞬間を、緻密な筆致で描き出す7篇を収める。深い緑青の地に、ぽつんと置かれたウィングチェアとサイドテーブル、点された電気スタンドがクリーム色の光だまりとともに浮かび上がる。背後にうっすら開いた扉。誰もいない室内のイラストレーションは、輪郭をやわらかな粒子で滲ませ、ここではないどこかへの入口を予感させる。タイトルの白い縦組みが、その静けさにそっと声を添える。
著鴻上尚史
装丁図工ファイブ
白水社 / 2013年
文学・評論