
石造りのトンネルの向こうに広がる町並みと、自転車を押して振り返る少女、足元の黒猫を捉えた一冊。週末という限られた時間のなかで誰かと誰かを繋ぐ物語が、緩やかに立ち上がってくる。アーチ状の闇に縁取られた光景は、暗部の黒と差し込む夕光のオレンジが強いコントラストを生み、タイトル文字は手書きに近い筆致でやわらかく配される。石畳のディテールや猫の輪郭まで描き込まれた装画と、闇に浮かぶ温かな色彩が、別れと出会いの境目にある時間の手触りを差し出している。

著市川哲也
装丁西村弘美
装画まいまい堂
東京創元社 / 2023年
文学・評論