
日常のなかで、自宅という最も慣れた場所でふと方向を見失う感覚。著者が綴る思索と生活のスケッチが、暮らしと心の揺らぎの境界を静かにたどる。表紙には西日が差し込む玄関口の一場面が大きく配され、無造作に脱がれたスニーカー、物干しに揺れる衣類、床に長く伸びる影が、生活の気配と漂泊感を同時に立ち上げる。白い縁に囲まれた一枚の写真と、画面に重なるように置かれた繊細な白文字のタイトルが、見慣れた家の景色をどこか遠い場所のように感じさせる。

著瀬戸内寂聴
装丁新潮社装幀室
装画上野リチ
新潮社 / 2022年
文学・評論