
亡命作家ナボコフが描く、チェスに憑かれた天才棋士の崩壊と、他者の生を覗き見る男の幻想。ロシア語原典から訳出された二篇を収めた選集である。カバー上半は深い臙脂と白で組まれた市松状のパターンが大きく展開し、その一マスごとに小さな格子模様が嵌め込まれている。チェス盤を想起させながらも整然と崩れ、視点が幾重にも入れ子になる構造を思わせる。キリル文字の原題と日本語タイトルが余白に静かに据えられ、盤上の戦いと覗き見る視線、その二重性をそのまま面に翻訳したような佇まいになっている。

著最果タヒ
装丁川谷康久
装画大槻香奈「進化の日」(2015年)より
新潮社 / 2017年
文学・評論