
近代日本の文豪たちが綴った恋文を集めたアンソロジー。私的な手紙の言葉を通して、表向きの作品からは見えない作家それぞれの恋愛観や情感の機微を辿る一冊である。カバーは、文机に頬杖をつき物思いに沈む着物姿の人物を、夕陽のような橙と黄土の光で包み込んだ細密なイラストレーション。手前の畳に長く伸びる影、舞い散る花弁、書架の輪郭が、追憶めいた時間の濃度を画面に与える。右側に大きく置かれた縦組み白抜きの明朝タイトルが、画の情緒を断ち切らず静かに置かれ、書かれた恋と、書き手の沈黙の双方を見つめる装いとなっている。

著喜友名トト
装丁川谷康久
装画げみ
新潮社 / 2023年
文学・評論