
記憶を失って目覚めた「わたし」をめぐる長篇サスペンス。失われた時間の手触りを、静かに辿り直していく一冊。上半分はグレーを背景に、麦わら帽子を被った横顔の女性が銀色の線で淡く描かれ、その傍らに山吹色の薔薇とつる草が伸びる。下半分の帯はうってかわって、桃・橙・黄・紫が滲み重なる水彩のような色面に切り替わり、藤色と白の丸い窓からタイトルと惹句がのぞく。線描の余白と色彩の渦が向き合う構成が、空白を抱えて世界の輪郭を取り戻していく物語の手触りに重なる。

著宮田愛萌、渡辺祐真(スケザネ)
装丁大久保明子
装画北澤平祐
文藝春秋 / 2025年
文学・評論