
江戸の市井を舞台に、小さな揚枝屋へ婿入りした青年が、相思相愛の妻や周囲との関わりのなかで揉まれていく時代小説。祝言の翌日に隠居を申し渡されるという思いがけない展開から、ほろりと泣ける夫婦の機微が描かれる。表紙は薄青の空に淡い雲が浮かぶ町並みを背景に、灰青の羽織をまとった主人公がふっと前を見据えて立つイラスト。線は細く、色は水彩のように淡く抑えられ、軒先の朱や暖簾の藍がそっと差し色になる。タイトル文字は枠で囲んで縦に据え、ルビが小さく寄り添う。穏やかな筆致が、人情噺の温度を画面の隅々まで運んでいる。

著渡辺淳子
装丁鈴木久美
装画マメイケダ
光文社 / 2020年
文学・評論