
もし別の人と出会い、結婚していたら——子に恵まれなかった夫婦が、互いの過去と「あり得たかもしれない人生」を静かに見つめ直す長編小説。表紙には、水色のドレスをまとった少女が木立の前にひとり佇む油彩画があしらわれ、深い緑と藍の重い葉群れと、足元に差すやわらかな光が対比をなす。タイトルは細身のセリフ体で控えめに置かれ、絵の余白へ静かに溶け込んでいく。記憶の中にだけ残る誰かの後ろ姿のような、淡い喪失感を装丁そのものが纏っている。

著渡辺淳子
装丁鈴木久美
装画マメイケダ
光文社 / 2020年
文学・評論