
ろう者をめぐる事件を描く「デフ・ヴォイス」シリーズの一作。声にならない慟哭と、それでも世界へ手を差し伸べようとする人々の姿を、静かな筆致で追う長編小説である。淡い藤色の地に、黄色いパーカーを着た少女が片手を顔の脇へ上げる仕草で描かれる。鉛筆の線で起こされた素朴な肖像と、たどたどしくも芯のある手書き文字のタイトルが、声なき者の存在感をやわらかく立ち上げる。色面のあわさが、聴こえない声に耳を澄ます時間そのものに見えてくる。

著渡辺淳子
装丁鈴木久美
装画マメイケダ
光文社 / 2020年
文学・評論