
夏目漱石の青春時代を、その本名「金之助」から呼び起こす長編評伝小説の上巻。寄り道を肯定する「ミチクサ」という言葉に、明治の青年が抱えた逡巡と好奇心がにじむ。表紙は淡い水彩で、開いた本に向かう着物姿の青年と、その肩に乗る黒猫を柔らかな筆致で描く。藍と土色を基調にした手描きの絵と、墨書のような大ぶりのタイトル文字、朱の角印が、私小説的な親密さと古典的な佇まいを同時に立ち上げる。文豪以前の、まだ名を持たぬ一人の若者の輪郭が、そのまま装丁の余白に重なる。

著ミラン・クンデラ、西永良成
装丁田中久子
装画横山雄
集英社 / 2024年
文学・評論