
円地文子、幸田文ら女性作家七人による「背徳」をテーマとしたアンソロジー。恋や欲望の翳り、道ならぬ感情の揺らぎを描いた短篇が集められている。鮮烈なオレンジを背景に、煙草をくわえスーツの胸元でグラスを傾ける男が横顔を見せ、その背後で黒い炎がゆらりと立ちのぼる。マンガ的な線で描かれた男の冷ややかな視線と、白枠に細い明朝で組まれた題字、隅に添えられた小さな欧文が、退廃の匂いを上品な距離感に整えている。装画と書体の温度差そのものが、背徳という主題の艶を引き受けている。

著野矢茂樹
中央公論新社 / 2014年
人文・思想