
引っ越しという生活の節目を題材にした小説。荷造りの最中に立ち現れる記憶や人間関係のざらつきが、日常を舞台に静かに描かれる一冊と思しい。カバーは灰色の地に、引っ越しの只中らしい室内を俯瞰で捉えた色鮮やかなイラストレーションを大きく配する。緑・赤・黄のダンボール箱が積み上がり、写真立てを覗き込む女性、点在する黒猫、奥で作業を続ける人物がコマ割りのように散りばめられる。タイトル文字はドット状の白で素朴に組まれ、雑然とした画面に静けさを差し戻す。喧騒のなかの孤独を、装丁全体が淡々と映し出している。

著渡辺淳子
装丁鈴木久美
装画マメイケダ
光文社 / 2020年
文学・評論