
古い写真館を舞台に、過去と現在を結ぶ物語が静かに進んでいく。表紙はセピアに寄せた暖色で塗り重ねられた室内の絵。窓から差す柔らかな光、棚に置かれた古い蛇腹カメラ、壁にいくつも掛けられた額装写真の連なりが、時間の堆積をそのまま画面に写し取ったような奥行きを生む。中央に佇む少女のファー襟付きの白いコートと赤いマフラーが、沈んだ色調にひと筋の温度を添える。タイトル帯の「西浦」だけを淡いブルーで抜く配色が、写真館という場所に残る余白を控えめに示している。

著渡辺淳子
装丁鈴木久美
装画マメイケダ
光文社 / 2020年
文学・評論