
余命五カ月を告げられた七十四歳の冬香と、念願の出産を控えた娘・紗南。紗南は母の姿をこの世にとどめるため、AIとして再現するための《記録》を依頼し、冬香は長く沈めていた記憶を語り始める。表題作と「二度目の海」を収録し、記録と記憶、名づけと喪失のあわいを静かにたどる小説集。荒々しい筆致の花々を、白い余白と二つの小さな題字面が切り分ける装丁は、感情の奔流と記録の枠組みを一枚の表紙に同居させている。深い色の重なりのなかに淡い花が浮かぶ画面は、生と死が同時に近づく物語の気配を先取りする。

著PerrinValérie、高野優、三本松里佳
装丁鈴木久美
装画agoera
早川書房 / 2023年
文学・評論