文学・評論
一生に一度のこの恋にタネも仕掛けもございません。
神田茜
マジックの世界を舞台に、ひとめぐりの恋を描く長編小説。蝶ネクタイ姿の男性と、ベスト姿の女性がオレンジのシルクを手に向き合い、トランプや薔薇、白い鸚鵡、鳥籠が散らされたイラストが、舞台のヴェルヴェット幕を思わせる暗色の地に浮かぶ。タイトルは縦組みの白文字、帯はオレンジ一色で刷られ、文庫の小ぶりな判型のなかに一幕の舞台がそのまま閉じ込められている。種も仕掛けもない恋の、それでも目を奪われる手品めいた瞬間が、画面の余白と灯りの加減から静かに立ち上がってくる。