
鬱蒼と茂る森を上空から見下ろしたような俯瞰の風景が、表紙いっぱいに広がっている。色鉛筆を思わせる繊細な線の重なりで描かれた木々の梢は、濃淡の異なる緑が層をなし、その間を細く白い小径が縫うように走る。径沿いに散る点描は花か木漏れ日か、左上を横切る一羽の青い鳥が画面に呼吸を与える。中央には白い短冊が静かに置かれ、明朝体のタイトルと著者名だけが立ち上がる。装画の柔らかな筆致と余白の引き算が、森の奥へ分け入る願いの気配を、声高にならぬまま読み手へ手渡している。

著渡辺淳子
装丁鈴木久美
装画マメイケダ
光文社 / 2020年
文学・評論