
記憶と人格の輪郭が崩れていく感覚を、精神科医を軸にした緊迫した語りで描いた長編。自己の同一性がいつ、どこで失われたのか――読み手の足元をも揺さぶる構造を持つ。表紙は粗い線が無数に走るモノクロームの中に、人型の影がにじみ、溶け、立ち尽くしている。輪郭は途中で岩肌に呑み込まれ、もはや像なのか刻み傷なのか判じがたい。タイトルは白抜きの明朝で静かに置かれ、文字だけがかろうじて此岸に残っているように見える。消えゆく者の最後の手触りを、紙面に焼きつけた一冊。

著EverettPercival、木原善彦
装丁鈴木成一デザイン室
装画吉田雨水
河出書房新社 / 2025年
文学・評論